現在、宇宙空間にハッブル望遠鏡が設置され、一五〇億光年彼方の宇宙の果てまで見ることができます。一方、電子顕微鏡は、原子構成という極微の世界まで人の目をもちこんで、ナノ世界までも画像に写すようになりました。また、遺伝子操作やクローン技術など、人間は極大と極小、両方の世界で、まさに神の業を手に入れたのです。 神の業を手に入れた反面、人類の精神性はどこまで神に近づいたでしょうか。
もう現在の人類は太古の人々が見れば神と同等、それ以上の力を手に入れているのです。
しかし、どう考えてみても、人類の精神性は技術進歩に比例したほどには成長していません。
技術と精神性の乖離、これこそが二十一世紀の人類が抱える、もっとも大きな問題なのです。
もう人類の精神性にほおかむりして、経済発展のみ追っていればいい時代は過ぎ去りました。人類のもつ野獣性をこれ以上放置することはできないのです。人間の心の本体である潜在意識にまでたどって、「精神性の浄化」を考えるときがきたのです。現代の超大国アメリカでも幼児教育、初等教育は、クリントン、ブッシュと二代にわたる大統領によって大きく変わろうとしています。政府の教育行政に大きな影響力をもつジョー・ペスという学者は、小学校教育を次のように転換するべきだと提言しています。「もう単語をいくつ覚えるとか、かけ算・わり算ができるとか、分数計算ができるとかがもっとも重要だという時代は過ぎ去った。今日は『誠実さ』だとか、『責任感』だとか、『勇気』とか、『自信』といったものが、教育現場でもっとも大切な時代がきている」こう述べて、小学校の六年間に身につけさせるべきポイントを五つ挙げています。
・いま自分が何をしているかを誰に対してもいえる。
・三年後に自分が何をしているかを明確にいえる。
・いまと三年後を結びつけ、どうしたらそこへ行けるのか明確になっている。
・どんなショックがあっても、三日で立ち直れる。
・インターネットを全員が使える。
どうでしょう、第一項目をしっかりいえる人が、いまのわが国にどれほどいるでしょうか。
毎日の出来事を述べることはできても、自分が取り組むべき課題をはっきり口にできる人はほとんどいません。
まして、第二項目と第三項目が述べられる人は少ないでしょう。
ジョー・ペスは、これが小学校教育時に必要だというのです。
ここには、EQを高めるための学校数育という明確な方針が存在しています。
アメリカは、成功へ向かう人間づくりを真剣に開始しているわけです。
二〇〇一年、ブッシュ大統領は二月の一般教書で、中学校の大改革を推進すると発表しました。全国一律の学力テストを毎年実施し、三回続けて平均点数が下がった学校には補助金を出さないというものです。すさまじいばかりの競争原理の導入ですが、さらにすごいのは、その学校の成績優秀児童は補助金がうち切られれば学力の低下が避けられないため、停止した補助金をその成績優秀児童に回して、私立学校へ転学させるというのです。
アメリカがやろうとしていることは、子供の潜在的な能力を引き出してやることで、積極的で前向きな生き方をさせることです。潜在的な能力を開発することは、潜在意識そのものを開発することにつながりますし、突き詰めていえば、これは潜在意識の浄化のひとつの方法でもあるといえるのです。
意識と気&甘えの環境の話(5)
潜在能力の開発が、なぜ潜在意識の浄化につながるのか?。
「人格」という言葉と「性格」という言葉がありますが、「あの人は人格がいい」という言い方をすることもあれば、「あの人は性格がいい」という場合もあります。このように、「人格」と「性格」というふたつの言葉は、意味が違うにもかかわらず、ほとんど同じ意味で使われることが多いのです。
ここで、「人間性」という言葉をもってきたとして、「人格」、「性格」、そして「人間性」という三つの言葉がそれぞれどういう意味をもち、どう違うのかを説明しなさいといわれたとしたら、みなさんはどう答えるでしょうか。
「性格」というのは、その人のもつ心の傾向のことをいいます。
心の癖、心の方向性といってもよいかもしれません。
単純にいえば、ニンジンが好きとか嫌いとかというようなことです。一方、「人格」というのは、法律用語としての使い方を除けば、一般的にその人がもっている道徳的性質のことをいいます。
「人格の成熟」、「人格の陶冶(とうや)」という言葉があるように、道徳的価値観に重きが置かれていて、人物の価値判断の基準となるものともいえます。怒りやすい人は、人格の完成にもっとも遠い人。
人格を測る尺度はふたつあり、ひとつは「怒らない」ということでしょう。
すぐにカッとなる人のことを、「人格ができている」などということはできません。
怒りの感情を抑えるということは、人間の精神修養の基本です。
躾だといって子供を怒る親がいますが、躾と怒ることはまったく別なことであって、躾に怒りは必要ありません。
いうことを聞かないからといって感情を荒立てるのでは、親自身の朕ができていないのであって、子僕より前に、親自身の感情を抑え込む躾や技術を身につけさせねばなりません。
こうした怒りの感情に生きる人々は、概してヘルニアを悪くするようで、『腰痛は怒りである』という書物まであります。人生上で許せない出来事が何かあって、心の中に怒りの感情がメラメラ燃えている人は、必ずヘルニアになるようです。まことに面白い意見であって、今後の研究が待たれるところです。
ヘルニアはともかく、怒りの感情が強い人は、確かに何かことを継続することが下手な人ということができます。
決められたことを守らない、その通りにやらない。そしてそれを継続しない。
こうしたことが、そのまま怒りの感情を助長させるようです。
だから感情の起伏が激しい人は、あきっぽい人と同根です。
同根どころか、感情は落ちつかず、ひとつのことをなし遂げる力に欠けている。
決まったことを守らず、継続しないから、人に対しても譲る気持ちが開発されていない。
だから人格の完成とはもっとも遠いところに位置している。これが怒りです。
「あきらめ」をもち始めたときから進歩は止まる人格の尺度のふたつめが「あきらめ」です。
「あきらめ」という言葉ほど誤解されてきた言葉はありません。
仏教が説くのは「諦め」であって、別に述べれば「諦観」です。
これは「あきらめ」とはまったく異なっています。
「分にあった生き方をしろ」とか、「そんなことは無理だからあきらめろ」という言い方をしますが、実はこれはもっとも危険です。「コツコツつましい生き方をすることがもっとも美徳である」と長い間思われてきました。
確かにそれは、欲をかくことよりもいいに違いありません。
しかし、気をつけなければいけないのは、それが現状肯定だけの進歩を欠いたあきらめになってしまう可能性をいつももっているということです。現状を受け入れることが、発展進歩の可能性を奪ってはいけません。
これをはき違えてきたことが、いま、もうひとつの発展を日本がなし遂げられない原因でしょう。
仏教の述べる「諦観」は、こうした「あきらめ」とはまったく異なっています。
ものごとの真実を明らかにするということで、換言すれば、「真実の開眼」とでもいえましょうか。
これからの未来が過去に拘束されてはいけない多くの日本人は現状からものを考えますから、どうしても現状肯定にならざるを得ない。大きな飛躍の発想を認めません。これが日本人が独創的でない理由です。
どうやらそれは「あきらめ」という日本人特有の発想に原因があります。
謙虚に生きるということは大切にしながらも、過去を継続する生き方はやめましょう。
「どんな未来でも自分には可能だ」。「自分には、どんなことでもなし遂げられる」。
これまでの生活を大きく脱した目標に立つとき、私たちは過去を大きく乗り越えた人生を開始させます。
☆ 意識と気&甘えの環境の話(6)
西洋で初めて潜在意識を探ることを学問にまで高めたのは、精神分析学者のフロイトでした。
フロイトは一八五六年の生まれですから、潜在意識の重要性が説かれるようになってから、まだ百年そこそこということになります。ところがインドでは、同じような学問が一五〇〇年前から存在していたのです。
インドで起きた人間の潜在意識についての研究を唯識(ゆいしき)といい、一般的には唯識論と呼ばれています。
読んで字の如く、「すべては、ただ識のみ」、つまり「一切のものごとは、心の表れによる」ということです。
唯識論が体系化されたのは、インド名でバスバンドウー、日本語で世親(せしん四〇〇〜四八〇年頃)によるとされています。
唯識論は、人間の心に焦点を放り、心の構造を分析し、いまでは仏教の重要な地位を占めるようになりました。
因みに、浄土真宗の開祖親鸞には三人の尊敬する人がいたといいます。
ひとりは法然、ふたりめが聖徳太子、そして三人めが世親でした。
親鷲の「親」の字は、世親の「親」をとって名づけられたものです。
唯識論の考え方によると、人間が外部の世界を認識する場合、まず眼、耳、鼻、舌、身、意という、いわゆる六根で感知するとしています。
眼で見、耳で聞き、鼻で匂いを喚ぎ、舌で味を確かめ、身体で触れた感触でものを認識するということです。
例えば、子犬を見て、「かわいい子犬だ」と「意」で感じたり、音楽を聴いて、「きれいなメロディーだ」と「意」で思うわけです。私たちは、この「意」を自分の心だと思っていますが、それは心の表層の部分にすぎません。
唯識論では、それよりももっと深いところにマナ識(末那識)というものがあり、さらにその奥深くにはアーラヤ識(阿頼耶識)という心の層があるというのです。
マナ識には、「自分中心に思いを巡らす」という意味があって、「あの人は好き」とか、「この人は嫌い」、「この絵はきれい」、「あの人の心は汚い」というような、自分でも説明できない感情を動かしている心の層をいいます。これを煩悩と言い換えることもできれば、フロイトのいうエゴということもできます。「好き」とか「嫌い」とか、「きれい」、「汚い」などのマナ識で感知された感覚は、その下のアーラヤ識という倉庫(蔵)に蓄えられます。ここに蓄積されるのは、私たちが生まれてきてから体験したことや、感じた印象だけではありません。過去世からの記憶のすべてが、このアーラヤ識に詰まっているというのです。
アーラヤ識は、記憶のすべてを溜めておく蔵ともいえます。
そのため、アーラヤ識は「蔵識」とも呼ばれます。また、長い時間眠っていた植物の種子が水分を含むと芽を出すように、ここにしまわれていた記憶があるとき心の表面に表れることから、アーラヤ識は「一切種子識( いっさいしゅじしき)」ともいわれています。唯識論では、潜在意識のアーラヤ識こそが心の本性と考える心の中で、このアーラヤ識こそがもっとも重要であるとされているのですが、それは、アーラヤ識の中に、「仏になり得る可能性」が秘められているためです。仏、つまり如来と同じ性質をアーラヤ識がもっているため、「如来蔵」とも呼ばれ、それが後に「仏性(ぶっしょう)」ともいわれるようになりました。専門的には、アーラヤ識が仏性を備えているのは、アーラヤ識そのものが仏性であるとする説と、アーラヤ識のさらに奥にアマラ識(阿摩羅識)という層があって、このアマラ識こそが、迷いや汚れに染まらない清浄心(しょうじょうしん)、つまり如来蔵だという説があります。いずれにせよ、唯識論では、私たちが「心で考えている」と思っていたその「心」というものは、六根の「意」で感知した表層の意識にすぎず、その奥にある潜在意識のアーラヤ識こそが、心の本性であると考えているわけです。この考え方は、潜在意識は意識の源であり、これは個人に属する個的無意識と、全人類共通の集合無意識とによって構成されるとみなしたユングの考え方と非常によく似ています。しかし、決定的に違うのは、唯識論では、人の心には仏性が備わっているとしている点です。
仏性のことを梵語で、夕クーガタ・ガルバといいます。夕ターガタとは、如来をいい、ガルバは胎児のことです。この言葉が表現しているのは、どのような人であろうと、心の奥深くには、仏になるべき胎児が宿っているということです。自分の中にある仏性を自覚することが仏教の教えの核心であり、胎児の状態の仏性を産み落として、真の仏性を表に表すことこそが、仏教の目的であるといっても過言ではありません。 すべての人に仏性は備わっているのですが、それは自己中心的な「どん・じん・ち」の「三毒」で覆われています。何か過ちを犯した人が、「心の底からお詫びします」といいながら、また同じような過ちをしでかしてしまうということがよくあります。もちろん、その人は、同じ過ちを犯そうとは思っていないに違いありません。けれども、なかなかそうはできないのは、それが本当の心の奥底から出たお詫びではなく、心の表層からのものだからなのでしょう。
この表層にある意識やマナ識は、ふだんは正しいことを考え、よい行いをしようとしているのですが、それがもっと深いところのアーラヤ識に存在する仏性から発したものではないために、すぐに自分中心の見方や考え方が表に出てきてしまう。顕在意識で「善」を実行しようと思っても、なかなかできないし、仮にできたとしても、いつまでも続けることができないのは、心の中に三毒が巣くっているためです。これが仏性を覆うヨロイとなっていて、自分の仏性に気づくことが難しくなっているのです。三毒を取り除き、自分の仏性を外に表すこと。これがもっとも肝心なことで、そのためには、自分の潜在意識の奥底にあるアーラヤ識から生じる浄化力の力を借りて、奥底から表層に至るまでの潜在意識すべてを浄化しなければなりません。ユングが提唱した集合無意識は、原文では「無意識の集合」ともいうべきものです。彼によれば、宇宙はあらゆる無意識の集合が偏在しており、それは人類が誕生する以前の太古の昔から形成されてきたとしています。
宇宙は誕生以来、あらゆるものごとの意識を常時無意識に記憶していて、その無意識の海に現在のものごとが漂っているとユングはいいました。それは見方を変えれば、宇宙のあらゆる存在は無意識の集合をその体内に宿していて、意識の深いところでは、まさに同根といえるべき存在だったのです。同根とは、どういうことなのでしょう。宇宙のあらゆるものが、根底には同じ意識をもっている。人も猿も鳥も、いやアジヤクジラやマグロなどの魚も、日本に咲くバラや南の島のハイビスカスや海辺に続くヤシの木々たちも、全地球上のあらゆる生物は共通に同じ意識をもっているということです。もっているだけではなく、お互いに共鳴し合っている。
それがユングの提唱したシンクロニシティというものでした。
ユングの考えとまったく同じことを述べている人が三世紀にいました。
それが道元です。あきらめが怒りや嫉妬を生む現実的、実際的に考えれば考えるほど人は過去に縛られ、過去を受け入れて、その範囲内で生きてゆくことになる。そんなつまらない生き方は捨てて、もっと自分が考える理想的な生き方に人生を合わせるべきといいます。アメリカは、本来的に画一化に背を向けてきました。だから情報化の波を受けて、いっそう個性化の道へ、「あきらめ」から「夢」実現の道へ大きく歩みを踏み出し始めました。
「脳力」を決めるのは誕生前後の一年だといいます。
誕生前後から、潜在意識は周囲に起こったものごとを取り込んでゆきます。
三歳になって自己イメージが芽生え始めれば、もう本格的に潜在意識の形成が始まります。つまり潜在意識は、自分の身に起こったことをすべて記憶し、感情が激しく動いた事実に対してとりわけ強い記憶となって大脳に記録されます。いったん形成された潜在意識の記憶は、その人を大きく操ります。
操られていることに顕在意識は気がつきません。自分が知らないうちに自分の潜在意識が記憶したように自分をつくつてしまう。本当に困ったものです。 幼児前期の脳が内向的な自己を形成すれば、もうほとんど一生それは直らない。このときに愛情を受け、外向的な性格を身につければ、ほとんどそのままものごとに積極的になり、また空間把握がこのときに形成されれば、目標をしっかり把捉した人間となって活躍する。
脳は、潜在意識によって自動的に操縦されています。
だからまず、自分の心の奥に芽ばえている意識の正体を知らなければならないわけです。
その意味からも、自分がもっている基本的な毒を取り除きたいものです。
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