あざなの存在は中国人の思想をよく表しています。あざなは生まれてすぐにつけるものではなく、成人となったあかしとして付けるものです。本名は家族の中で使い、あざなは対外的に使います。成人にたっすると、家の外の人との付き合いが始まり、そのためにもう一つの名を用意するのです。そのことは人というものは常に二つの世界持っているということをあらわしています。ひとつは家族という血縁の世界で、この外にいわゆる世の中があります。極端なことをいえば家の外で法にふれることをしても、家の中では無罪です。家族のものを外の法からかばい通そうとします。それを愛情の問題で解しようとすると、まとがはずれるということです。宇宙観が違うと思ったほうがよいでしょう。家族と先祖で成り立つ世界は、独立した宇宙なのです。(日本でも、中国的なものを取り入れていた時代が長くありました、現在でもこのなごりが、随所にみうけられます)
☆ 境界の話
中世の国家は、天皇または幕府を中心に、貴族や武士や寺社などがゆるやかにまとまっているもので、近代国家のように明確な国境線というものはなかったが、それでも、日本の境界はどこからどこまでかという、おおざつぱな国土の意識は、中世の人々も持っていたようで、史料で見ると、たとえば、平安時代の九二七年の 『延喜式』 では、日本の果ては、東は「陸奥」、南は「土佐」、北は「佐渡」となっている。一二七七年の「八幡愚童訓」では、東は「ソトノ浜(外が浜)青森県」、西は「鬼界島 鹿児島県」となっています。十四世紀初めごろの『真名本曾我物語』では、鎌倉幕府の警察力・軍事カが及ぶ範囲を、南は「熊野の御山」、北は「佐渡の嶋」東は「アクル・津軽・へソガ嶋(蝦夷島)」、西は「鬼界・高麗・硫黄嶋」としており、これを当時の日本の範囲とみることができます。一四世紀末の『融通念仏縁起』では、日本の範囲は「えす(蝦夷)」から「いはうか島(硫黄島)」までとなっています。そのほか、さまざまな史料を総合したところでは、だいたい、北は佐渡、南は熊野か土佐。東は津軽半島の外が浜というのが多いようですが、「蝦夷が島」 つまり北海道という場合もあります。西は「鬼界島」がもっとも多く、「博多の津」「壱岐・対馬」「高麗」という場合もあります。「鬼界島」「硫黄島」は鹿児島県の南の沖合にある島で、「高麗」が日本に含まれている史料もあるのは、古代に朝鮮半島が日本の属国と考えられていた名残と思われます。 外が浜や蝦夷が北の果てではなく東の果て、鬼界島が西の果てとされたのは、中世の人々が、日本列島は東西に長く伸びていると考えたからでしょう。中世の人々の世界観では、京都または鎌倉を中心に考え、国の外はケガれたところと考え、そして、国の外の「異域」に住むアイヌや流球の人々などを「鬼」と捉えたのでは・・・。ただし、それはあくまで京都や鎌倉などの中央の人々の価値観で、境界近くに住む人々は、「異域」の人々と独自に交流を持っていたようです。
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