KJ法という技法は、創始者の川喜田二郎氏以外には本当の説明はできないはずのものですから、ここでいうことはあくまで「こういう見方もできる」というだけのことです。「不識」からの仮説設定は「不立文字」です。問題について「分析」はしません。だからアタマの中のイメージを取り扱わなくてはなりません。しかし、そんなことをいっても現実にはたいへん困りますので、できるだけそれに近い状態で考えるにはどうしたらいいか?
1、問題を解くのですから何が問題かをハッキリとつかんでおかなくてはならないのは当り前で、これは文字にすることができます。
2、「識」から離れる。そのために「論理時間」は使わない。しかしコトバは使わざるを得ないから、このコトバはバロールにする。ということは、意見は使わないで、その意見のよって来るところの事実だけをやさしいことばで書く。「A君は怠け者である」というデータはとらないで、「A君は何月何日工場で酒を飲んでいた」とか、「A君は何月何日ヒルネをしていて午後の作業に遅れた」というような事実です。明らかにこのような事実なら,即座にそのイメージが現われる(バロール=イメージ)。
3、データを平面の上にバラまく。イメージは,空間配置型なのです。
もちろん、こういうふうにデータを配置するためには、当然データをカード式にしておくことが必要になります。
4、アタマの中に仮説をおかない。「このことはこうなるはずである」というようなリクツはすてる。これも「識」から離れることです。
5、データをして語らしめる。この当りから難しくなります。
データが口をきくはずがない。しかし、いのちのチエ、仏のチエというのはコトバで考えなければ現われるのですから、こういうよりほかに仕方ほありません。莫妄想することです。そうすれば「ハハン!」と「気づく」ということです。気づくまでには時間がかかります。
6、「ハハン!」ときたら、そのことを一行見出しにする。「識」のたすけを借りるわけです。そうしないと,せっかく気がついたことを忘れてしまいますから。
7、以上の手続きを繰り返すことによって、仮説が生まれてくるのを待ちます。
以上は「不識の構造」から考えたKJ法の説明です。
☆いのちとちえ、道元の「現成公案」の話
道元の「現成公案」の中に,こういう文章があります。
「仏道をならうというは自己をならうなり。自己をならうというは自己を忘るるなり。自己を忘るるというは方法に証せらるるなり」。
ここにいう「仏道」とは、「いのちのはたらき」を知るための修行です。そういう修行をするということは「本来の自己」(一切衆生悉有仏性の仏性、いのち)をならうこと。そしてそれには「自己」(エゴ、理性の自己)を忘れることが大事(「識」をすてて「不識」へいく)。その「自己」(「識」)を忘れるというのは「方法」(あらゆるものや出来事)が証明してくれるのだ、というわけです。そこで、はじめの「仏道」は、いのちが本来もっている本来探究心を働かせるための技法であると考えてもいいので、これを「KJ法」とおきかえてみますと、「KJ法をならうというは自己(無識の自己、仏のチエが出る)をなろうなり。自己をなろうというは自己(この自己はエゴ、リクツ)を忘るるなり。
自己を忘るるというはデータによって証せらるるなり」と。まことにピッタリくるのです。以上のような考え方が成立するとしますと、KJ法にはそれが人間の「不識」に関係しているが故に、やはり禅と同じように「不立文字」、「いわくいいがたし」ということが、まつわりついてきます。すなわち「莫妄想」と同じような「修行」がその基本になくてはなりません。「バカになってやってみる」ことが大切なので、これがKJ法の難しさになると思います。古来、コトバで伝えることができないもの、悟り、極意といったものは、弟子が師のもとで修行して、「自ら会得」するものです。弟子が一人前になったかどうかは師でなくては分かりませんから、師がこれを「認めて」やる。お墨付きをもらうわけで、宗教でも芸事でもスポーツでも、「何段」とか「何級」とかいうものがそれを表わしています。
KJ法でも創始者の川喜田二郎氏が「KJ法の段級制」ということをいい出したのもこれであります。お釈迦サマがいうように、正法はやがて象法になり、ついには末法化してしまうのはやむを得ないので、そうならないように教外別伝として禅をすすめるのですが、その弾もまた「禅宗」という宗教の形になっていきます。
KJ法も巷間すでに象法化して、「形だけのKJ法」が行なわれるようになってきたので、上のような処置をとられざるを得なかったものと思います。それ故にこのうえは、KJ法の論理づけということがなされなくてはならないでしょう。それが仏教に対する禅、キリスト教における哲学の役目を果たすこと・・・。
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