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命とちえ、発想法の話
「考えても仕方がないことは考えない」という練習が徹底すれば、「いのちのチエ」、すなわち「仏のチエ」が現われます。これが禅という発想法の一面だといまは考えておきます。「禅」という字は、「示」偏に簡単の「単」を書くので、簡単に示すと、これを「莫妄想（まくもうそう）」といいます。妄想する莫（なか）れ、で妄想というのはクヨクヨとくだらないイメージをアタマに描くことです。そういうことはコトバで考えるので、イヌはそうはしません。気になるようなイメージを任意に切ることができるようになるということは、さきに述べたように、問題に役に立つことだけを効果的檻考えるということにもなりますし、また、いっさいの固定観念をいつでも切ってしまうことができるということにもなります。弁証的思考がうまくできるために、つまり、大胆不敵な仮説をうち立てるために、いちばん障害になるのが固定観念ですから、莫妄想することは弁証的思考をたすけるし、また、弁証的思考ができるようになれば妄想しないようになるでしょう。
故に、このような禅的思考というのは具体的な仮説設定の技法であるということもできます。ただし、この場合、弁証的思考における「仮説（アイデア）を創り出す」というダイナミカルな意志的な面は後退し、「アイデアが生まれてくる」という、調和性が、前面に出てくるのは致し方ないでしょう。さきに述べたように，これが日本人的思考型式の潜在意識となっているわけです。キリストの場合と同じく、仮説設定法（発想法）は、常に「人間の悩みを解く」ことに使われるのは当り前で、釈迦（B.C〜560）はいろいろな修行をしたあとで、この禅によって仏教の仮説を得たと思われます。釈迦は出家してバラモンの修行場に6年ぐらい居たらしいのですが、そこでおそらくいろいろな仮説を立ててみたのでしょうが、キリストのように「神」を見つけることができなかった。それで、あきらめたかどうかしりませんが，明らかに修行を放棄したように思われます。修行場を脱け出して、菩提樹が茂って涼しく花が咲き小鳥がさえずっている丘、そばにはきれいな川が流れている、そういう居心地のいいところに逃げ出して、しかも村の娘さんから牛乳さえもらって飲んでいます。さらに寝釈迦像などがたくさんあるところをみると、あるいはここで寝ころんで考えたのかもしれません。
そうして2週間ののちに「八正道の仮説」に気がついた。これが「仏教」の基本になりますが、この「仏教」は「ただ信ぜよ」ですから宗教であり、キリスト教が「神を愛せよ」、いいことをせよ、と教えたと同じように「諸悪莫作（まくさ）」、悪いことはするなと教えます。しかも、セント・アウグスチヌスのいうように「神を愛せよ、しかして汝の欲するままに行なえ」に対して、「諸悪作（な）す莫（なか）れ」かつ「諸悪作（な）す美（な）し」、つまり「己の欲するところにしたがいて則（のり）を超えず」というので、弁証的仮説の「神」も禅的仮説の「仏」も、人間の悩みを解く方法は結論的には同じことになっています。そこで、釈迦は仏教を作った時に、「私はここに正法（しょうほう）（正しい法）を伝えるが、500年もたつとこの法は象法（ぞうほう）（かたちだけの法）になって、坊さんがお経をあげたり礼拝したりすることだけで、わがこと終れりと思うようになるだろう。さらに500年たつと、末法（まつばう）になって、坊主が宗教をダシにして金もうけを始めるようになるだろう」と予言しました。まさにいまの世は末法の世の中です。それで釈迦は，いかなる末法の世になっても「私が考えたように考えるなら、いつでも正法を知ることができるはずである」といい、この方法、つまり禅のやり方を「教の外に別に伝える」といったのでこれを「教外別伝（きょうげべつでん）」というのです。ですから明らかに「禅」は宗教ではありません。となると「禅」は釈迦の教えてくれる、「発想法」のトレーニング方法ということに・・・？
「不立文字（ふりうもんじ）」（文字を立てず）というのはコトバで考えないということです。
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